先日マーガレット・アトウッド『侍女の物語』を読み終えました。
舞台は近未来、出生率が下がったおかげで妊娠できる女性は希少な存在なんですが、それにもかかわらず「子どもを生む機械」程度の地位しか与えられてない――そういう国が突如として(地理的に言えばアメリカ大陸に)立ち上がって、国民を監視してる。この国の思想的な根拠はキリスト教です。聖書の中の子どものできない妻の代わりに侍女が代理出産をするというエピソードがあるんですが、それを根拠にして、字義通り実行しているわけです。自由の国アメリカでクーデターが起こって大統領が暗殺されて、ガチガチの宗教国家が誕生するという設定は秀逸ですね。この新国家「ギレアデ共和国」というんですが、国旗には目玉に翼の生えたシンボルマークがあしらわれていて、監視国家であることがこれでもかと言わんばかりに表現されています。女性作家の作品なのに、設定はかなり大味な感じがしますね。。。いや、女性はあんまり細かい設定とか好まないのかもしれませんね。実際、物語は主人公の一人称視点で、過去の回想を交えながらしっとりと書かれていきます。感受性や着眼点も、女性的というよりは少女的ですらある。だからといってまったく退屈しないのがこの小説のすごいところです。海外の本関連の記事を見てたらかならずと言っていいほどその書名があらわれるのも納得の内容。特に物語のラストの絶望と希望とを行き来するような、両義的な幕引きと物語の構造を明らかにする「資料」が純粋な読者にとっても、ちょっと小難しいことを考えるのが好きな批評家にとっても配慮された内容になっていて良かったです。日本では邦訳が絶版な上に、映画もDVD/BD化されていないという有り様。非常に残念なことですね。
で、いろいろネットで調べていたら、『侍女の物語』の各シーンを描いたイラストを見つけましたのでご紹介しておきます。このくすんだ色合いといい、錆びた鉄のような質感といい、小説の雰囲気がよく出てます。
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