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9月, 2010の投稿を表示しています

【創作】エーエム・ワールド。

「どうやら近頃イゾンショーという病気が流行ってるらしい」 「へぇ、どんな病気なの?」 「分からん。ただ、聞いた話によると、頭からキノコが生えてくるらしい」 「キノコ? 菌類がよく育つの?」 「おそらくそうゆうことだろうな」 「あ、おじいちゃんの頭に生えてるキノコって、ひょっとしてイゾンショーのせい?」 「おそらくそうゆうことだろうな」 「死ぬの?」 「分からん。ただ、頭からキノコが生えたまんまで死ぬのは困るな」 「そうだね。棺桶に入んないもんね」 「まったくだ。どうせならふつうに死んでふつうの棺桶に入りたい」 「やだよ! おじいちゃん! 死んじゃダメだよ!」 「ふふ、お前はかわいい孫だよ」 「いま死なれたら頭のキノコの分だけ棺桶のサイズを大きくしなきゃいけないから家計が大変になるってお母さんが言ってたよ!」 「お前は家計のことを心配してるのか、えらいなぁ」 「うん、だって家計が大変なことになったらサンタさん(親父)がぼくにクリスマスプレゼントをくれなくなるもん!」 「ほぉ、お前はクリスマスに何がほしいんだい?」 「そりゃ当然ラジオさ!」 「はっはっは、ラジオかい。そんならこの老いぼれたじじいがプレゼントしたげよう」 「え、ホントに !?  おじいちゃん、ホントにラジオくれるの !?  てゆうか持ってるの !?  老いぼれたじじいなのに !? 」 「ああ、もちろんだとも。ほら、そこの引き出しを開けてごらん。入ってるだろう?」 「え~と・・・あ、おじいちゃん、これ?」 「はっはっは、孫よ、それはラジオじゃない、エロ本だよ。この国の男どもはそれによって神の一手に近づくことができるんだ」 「なぁんだ、どおりでイヤらしいと思った。あ、じゃ、おじいちゃん、これだね、これがラジオだね」 「ざーんねん、それはお前のおばあちゃんだよ。それとわしが、さっきのエロ本でやってたようなことをして生まれてきたのがお前のお母さんなんだよ」 「ふぅん、生々しいんだね。あ、じゃあ、おじいちゃん、これがラジオだね、そうでしょ!」 「ふふふふ、かわいい孫よ、違うよ、それはプラズマテレビだよ」 「ええぇ~。絶対これだと思ったのにぃ・・・。おじいちゃん、ホントにラジオ持ってるの?」 「もちろんだとも。ほら、ここに」 「あ、おじいちゃんがずっと手に持ってたのが、ラジオだったんだね! ひどいや! おじいちゃん、

【創作】命を乞うことについての考察

先日、観光名所として知られるある洞穴で老婆がひとり死亡した。自動車に乗ったまま、洞穴の中へ飛び込み、壁面に衝突したのだという。人づてに聞いただけなので詳しいことは全く知らないのだが、おそらく即死だっただろう。洞穴の入り口には柵があり、観光客の出入りを制限していた。そこを超えるだけのスピードで突っ込んでいったのだとすれば、壁に激突して助かるわけがあるまい。私はその話を聞いた時そう考えていたし、私にその話をしてくれた親友も――彼も人づてに聞いただけのようだった――私と同じような考えをしているような口ぶりだった。信じられないことって起こるもんなんだよな、まさか洞穴に車に乗ったばあさんが突っ込むなんて。少しばかりの憐みを笑いに含ませながら親友は会話を終わらせた。 私たちはたまたま駅でばったり会っただけだった。お互い目的地へ行く途中に立ち止まって中学校を卒業して以来知らなかったお互いの近況を聞き合っていた。この洞穴に突っ込んだ老婆の話も、その中の他愛のないひとつだったわけだ。そして、親友はきっと私と別れた後、目的の場所で用事を済ませて、帰途について布団に入ってしまえば、翌朝には昨日どこかで誰かと会って何か話した気がするけど何だったっけかな? と思うに違いなかった。この手の話題は、野生のサルが仲間に食べ物のありかを教えるのに似て、単なる音の信号としてしか役に立たない場合が多い。サルはその時々、その場その場に相応しい叫び声を上げるに過ぎず、その一々の音高を記憶しているわけではない。人間だって同じようなものだ。 ただ、世の中には数字を覚えるサルがいるように、その日聞いた話を次の日になっても忘れないでいる人間もいたりする。いやむしろこれはもしかすると動物と人間を分ける重要な特徴なのかもしれない。と言うのも人間には文字というものがあり、紙とペンさえあれば自分の記憶力のなさをごまかすことが出来るからだ。私がこの事件を覚えていたのもその日のうちに忘れず日記に書きつけていたからだった。 曲がりなりにも私は小説を書くことを生業としている人間なので、アイデアに詰まると日記を読み返しながらいろいろなことを考えることにしていた。たとえば日本の習俗に詳しい文化人類学者の書いた本を読んだ日には、雨乞いの話に興味を抱いていたのを思い出した。そこには日記帳に刻みつけるような筆圧で熱心に本の内容が引用してあ