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そういう瞬間を待ちわびて。

人間の心には無数の扉があって、 ある扉は、しょっちゅう開かれたり閉じたりしているのに 別の扉は一生のうちごくわずかしか開かれない、 ということがあると思う。 そして、私はこの開かずの扉が 何らかのきっかけで開く時に生じる「コミュニケーション」こそ、 その人にとって、 真のコミュニケーション ではないかと思うのだ。 それは恐ろしい自己発見の瞬間であるかもしれないし、 あるいは深い喜びの爆発を伴う瞬間であるかもしれない。 いずれにしても、それはだれか、あるいは何物かに対して、 突然見えない橋が架かったというような驚きの瞬間であるだろう。 私たちは日常生活でおびただしいコミュニケーションの網目の中に生きながら、 実はそういう瞬間のために生きているのではなかろうか。 (大岡信『青き麦萌ゆ』より)